手描きパースは職人芸のようなもので、私は故種橋重次氏の下で7年間修行しました。
私が師事する前から氏は陶芸(信楽焼)を行われており、やがて伊豆に穴窯を作り、
鎌倉で成形・素焼き、伊豆で本焼きをされるようになりました。
窯の名前は「無天窯(むてんよう)」。
竹林を切り開いて宿泊用の東屋もご自身の設計で造り、趣のある隠れ処です。

本焼きは私も何度か手伝いましたが、これがなかなか難しい。
穴窯で焼く薪の灰がそのまま自然釉となるので、薪の数・焼成温度が仕上がりを左右します。
小さな開口から薪を投げ入れるのですが、温度が思うように上がらない。
松と雑木では炎の長さも違うので、落とす位置にも注意しないと(私はコントロールが下手で)。
ある時は窯を囲っている上屋に火が地面から燃え移りそうになり(もう少しで竹薮焼けた・・)。
5・6日続く本焼きが終って一週間後の窯開きは、全ての結果が出る緊張の瞬間でした。


下は以前頂いた花器の表裏です。火の方向や灰の量で景色が違います。
シンプルですが偶然性に頼る贅沢な作陶法と言えるでしょう。
kaki
その後、種橋氏は伊豆に移住し本格的に陶芸家の道を歩まれましたが、2006年 病に倒れ亡くなりました。
9/17(木)~10/15(木)まで伊豆急稲取駅前のギャラリー「阿加羅」で種橋 重土遺作展が開かれています(重土は雅号)。
先週行って花器を買い求め、翌日師のお墓にお参りしました。
黒い御影石には「無」の一文字。
陶芸を極めるには早すぎる死でした。
isakuten